【『FORTUNE ARTERIAL』 Short Story 「ウェデイングドレスの妹」 by やまぐう様】
純白のドレスをまとった瑛里華と、それを見るあの人はどんなことを思うのでしょうか。
【『FORTUNE ARTERIAL』 Short Story 「ウェデイングドレスの妹」 by やまぐう様】
千堂伊織は控室に割りあてられた部屋のドアを軽くノックした。一呼吸の間があってから「どうぞ」というやや尖った声が返ってきた。
ノブをまわし、人の耳にはまず捉えることのできない小さな音しかたてずにドアを開け、なかへ滑りこむ。
目の前にいる華やかな少女の姿に目を細める。

金髪を花と葉で美しく飾り、手にはブーケ。真っ白なドレスに包まれている彼女へ、両手を大きくひろげて伸ばした。
「おお、我が妹ながら素晴らしい。綺麗だよ、瑛里華」
「……」
「あとは笑顔だけだ。ほら、笑って笑って」
「笑えるわけないでしょ。はあ……」
芝居がかっているものの真心もこもっている兄の賛辞を受けた千堂瑛里華は固い顔のまま、深く息をつく。
瑛里華が豪華絢爛なウェディングドレス姿でいるのは、繁華街にある写真屋の店主が伊織に頼んできたことに端を発する。デジカメに押されて現像の仕事は廃業となり、今では記念撮影でしか出番のなくなった店を大々的にアピールしたいと企画込みで伊織に相談してきた。それならこうしようと伊織が出したのが、瑛里華の結婚写真を飾ることだった。
「なにが不満なんだい。純白のドレスを着て、支倉君の隣りに立てるんだよ。瑛里華の夢がいち早く実現したんじゃないか。ほおら、スマイルスマイル」
キラリと歯を光らせて実演してみせる兄へ、眉間に皺を刻んだまま答える。
「だって、宣伝に使われるだけで、本当の結婚式じゃないもの」
「やれやれ、学生結婚する気なのかい。それなら支倉君がプロポーズしてくるくらい、彼をお熱にさせないと。いやいや、それよりも瑛里華のほうから正式に支倉君にプロポーズを――」
「できるわけないでしょ」
「まあ、わかっているならここは写真だけで納得してくれ。それに、瑛里華はこれから歳を取っていくんだから、若いうちの写真は貴重だぞ」
なにげなく口から出た伊織の言葉に、はっとなって固さが吹き飛んだ。
瑛里華の体内にあった蒼珠はなくなり、彼女は吸血鬼でなくなった。血を吸う宿命から逃れると同時に不老不死でなくなり、これからは歳を取る。
もっとも瑛里華は見かけ通りの年齢。普通に歳をとってきて、不老不死の恩恵に預かる前に人間に戻ってしまった。それでも、若い姿で長く生きてきた兄が「歳を取る」と言えば、その重みをひしひしと感じる。
「孝平のほうはどうだった?」
兄にのしかかっているものから目を逸らし、もうひとりの主役へと話を振る。
「ああ、支倉君ね、うん、いやあ初々しかったよ。ガチガチになってさ、俺が本当に瑛里華の横に立っていいんでしょうか、お、お兄様と呼んでいいですか、なんてね」
「見てきてないんでしょ」
「ハハハ。男の正装を見るよりも、可愛い妹のウェデイングドレスのほうがいいに決まってるじゃないか。それに、最愛の妹を奪っていくにっくき男にいい顔ができるはずがない」
ぽんぽんと朗らかに飛び出てくる言葉を聞いても、瑛里華の曇りはなかなか晴れない。
伊織は軽さを消して口もとを引き結び、瑛里華の顔に見入る。
「まあ、瑛里華にしたって支倉君にしたって本番に強いからね。そのときに笑って輝いてくれればそれでいい」
「だから、これは結婚式本番じゃないでしょ」
「撮影本番ってことさ。楽しみだよ」
まっすぐ相対していた伊織は横を向き、壁に背をもたれた。誰もいない正面へ向かって淡々と語る。
「写真になった瑛里華は永遠だからな。俺に付き合ってくれる」
「兄さんだって吸血鬼をやめればいいじゃない」
小さな声で瑛里華が言う。やめられない理由があることを承知の上で。
「そうだなあ。どうしても結婚したいってほどの女の子と出会ったら、やめるかもしれないね」
ふっとほほえんだ口もとには自嘲がわずかに混じっていて、それは瑛里華の胸をチクリと刺した。長く生きてきた兄がずっとこの性格で女と真面目に付き合うことがなかった、などというはずはないと直接聞いたことはなくても知っていた。
「やめるのが幸せなのかどうか、わかったもんじゃない。でも、瑛里華はやめて、幸せになれるよ。こうして純白無垢のドレスを着られるんだからな。もう少し経って、大人になって、俺よりも大人になって支倉君と結ばれる。素晴らしいじゃないか」
吸血鬼である男の声は力がこもっているのに、虚ろにも響く。
背を壁から離して伸びをすると、瑛里華へと向き直った。
「支倉君はいいね。瑛里華といっしょにいて、今日も俺を楽しませてくれる。俺の目は確かだった」
「巻きこみすぎよ」
「巻きこまれて彼が満足してるんだから、結果オーライさ。瑛里華だって今の結果に満足してるだろ」
「……まあ、ね」
瑛里華は小さく息を吐き、縮こまっていた肩から力が抜けた。女の夢である自らの格好を目に留め、別室で着飾っているはずの恋人へ思いを馳せる。
孝平とふたり、人と人としていられる幸せはなにものにも代え難い。彼だけでなくみんなの力を借り、母と対決し、家族となれた。自分が成し遂げたことに誇りを持っている。
だがこうして兄と向かい合うと、引け目を覚えてしまう。自分は人として幸せを掴めても、自分より遥かに長く生きている母と兄はその生き様ゆえにこだわりと宿命から簡単には逃れられないのだ。
おもんぱかる心を感じ取ったのか、伊織は首をすくめた。瑛里華はそんな兄の姿を目に留め、うんとうなずいた。
伊織がこの部屋に入ってきて、いちばんリラックスした顔を見せる。
「兄さんとも、並んで一枚撮るわ。今日の記念に」
「うん? それは……まあ、それもまたいいか」
さして面白くなさそうに返したことこそ、伊織の照れの表れ。花嫁の唇がゆるんで、くすっという声が漏れる。
今の姿の兄と今の姿の自分。ともに学院の生徒で、だからこそこんなイベントに参加することができる。学院生活のひとつの思い出が写真に残る。
今日が楽しい日になると、瑛里華は思う。
タイミングよく伊織から声が飛んできた。
「そろそろ、支倉君のところまでエスコートさせてもらおうかな」
「ええ」
白い手袋に包まれたしなやかな手がすっと伸び、伊織が優雅に取る。男が顔を寄せて唇を触れあわそうとしたところに、「そんなことしなくていいの」とおかしそうな声が飛び、伊織は「ちぇ」と笑いかえした。
いかがでしたでしょうか。
文中にもあるとおり、真ルートの結果、瑛里華は吸血鬼ではない、人としての生を歩むことになり、兄である伊織とは時間軸がずれていきます。だけど、二人はちゃんと家族として繋がっていて、伊織は妹の幸せを一番願っていて…そうしたことを文章から感じられます。
「写真になった瑛里華は永遠だからな。俺に付き合ってくれる」
伊織のこの台詞は、ブタベの大のお気に入りの台詞になりました。瑛里華から視線を外して言った台詞。彼は何を想いながら言ったのでしょう…。
今回の絵は、もともとは本当の結婚式のネタだったのですが、どうしても笑顔の瑛里華にならなかったので、急遽、写真屋と伊織の企画という形になりました。
さて、本当の結婚式、バージンロードを歩む瑛里華の横にはたぶん伊織がいることでしょう。そのとき、彼がどんなことを言うのか…それも楽しみですね♪
○
文中にもあるとおり、ドレス自体は純白無垢なのですが、取り扱いに困ったのが頭の両脇にあるトレードマークのリボン。ヴェールに隠れているような形で描きましたが…うまくいっているのかどうか。
>冥界の性神官様
おかしい…本人の紹介では「品行方正な優等生神官」のはずなのに…邪念だらけだというのか(^^;ブタベストPERFECT GIRL…?No Titleこんばんは、いつも見ているゾ。
>担当声優沢澤砂羽さんの声は演技力高くて中毒性がありますねー。
冥界の性神官様ェ・・サツキヒスイ冬が始まる…よ?もうすぐ春ですねぇ、と春分直前に言う人ついに春になってしまいました…返信できてなくてすみませんです。
> なぜか不正な投稿扱いに…なんでだ
むむ、すみません。
イマイチFC2ブログのセキュリティの網はブタベスト冬が始まる…よ?ようやく寒くなってきましたコメントを書こうとしたらなぜか不正な投稿扱いに…なんでだ。
恐ろしく暖かいかと思えば急激に寒くなったりと変動が激しいですね。
こちらも文章や改造絵が遅々としてひでやん